外が紅い。夕方。

学生であったら"一日が終わった・・"と思えるこの瞬間、


何故か彼女は何かを始めようとしていた。



「鳴海さん、髪の毛結ばせて下さい♪」
「・・は?」



いつもの部室で座っている彼の前には両手に鏡とゴムとクシを持っている彼女が立っていて。

明らかにこの部室の管理人とも言える結崎ひよのは歩の髪の毛を無理やりにでも結んで遊んでやるという気持ちでいっぱいだった。

もうすぐ帰ろうと誰もが思っている時間帯に。

なので歩はちっとも乗り気では無かった。



「・・何で」
「だって鳴海さんの髪、もう伸びてるじゃないですか」
「・・・で?」
「だから結びたいなぁーっと」
「自分の結んでりゃいいだろ」
「人のと自分のでは違うんですよ!楽しさが!」



両手をグーにして訴えるひよの。

訴えられた歩にしてみれば迷惑で仕方の無いコト。

しかしこのままでは余計面倒なコトになるのはイヤでも判る。


そこで彼が提案。




「・・じゃあ、俺が結んでやるよ」





























離したくないな。





























さっきまでは歩がが座っていたイスにひよのが座っていた。

正確に言えば"座らせられていた"。

ひよのはその状態に同意していなかったので。



「私はもう結んであるんですからいいんですよっ!!」
「煩い。動くな」



そしてひよののリボンを手早く解く。

彼女は「あ〜っ!!!」と叫んでいたが気にしない。

ひよのの手からクシを取り出し、髪を梳いてやる。

その手つきはいつもの"無理やり"ではなく、ゆっくりと。



「どんな髪型がいい?」
「え、と言うか・・鳴海さん、結べるんですか?」
「まぁ、人並みに」



ひよのが不思議がる。

確かに歩は器用かもしれない。それは判っている。


しかし髪の毛を結ぶなんて経験が無いとさすがに・・



「何黙り込んでるんだ?」
「え?や、別に・・」
「言わないなら適当に結ぶからな」
「ダメですよー!えーっと・・じゃあ、普通に1本に束ねて下さい」
「判った」



なるべくひよの的に簡単なのを言ってあげたつもり。

歩が手でひよのの明るめの色をした髪をまとめ始めた。


そこでひよのが思ったコトをそのまま口にしてみた。



「鳴海さん」
「何だ」



髪を梳きつつも綺麗にまとめようと頑張っている歩。



「今、私こうしてて思ったんですケド」
「・・何を?」
「私の髪を触ってるときの鳴海さんの手ってえっちぃコトしそうだし、キライだなぁとか今まで思ってたんですケド」
「・・・おい」
「でも、こうしてると全然そんなカンジがしないんです。不思議ですね、同じ手なのに」



彼女がクスクスと笑っているのが

特別音がしない部屋なのでよく判る。


・・何となく、イヤだ。

彼女が自分よりも優勢なトコロにいるのは許せない、自分的に。



「・・別にそんなのすぐに変えれるが?」
「え?何がです?」
「何にも」



そう言いながら彼は不思議がる彼女の髪を編み始めた。

ひよのは勿論、驚く。


そんな顔をさせるのが彼の趣味の1つでもある。

前から見れないのが残念。



「え、あの・・結ぶだけでいいんですケド・・?」
「気にするな」
「時間かかっちゃいますよ?早く帰りたいんじゃないんですか?」



確かに、早く帰りたかった。

でもそんな気持ちはとうに無くなっていて。


むしろ今はその逆。



「・・こう言ったらどうする?」



ゆっくり、丁寧に編む歩。


そしていつもの不敵な顔でこう言った。




「離したくないな。あんたの髪」




勿論、表情は彼女には判らなかっただろうケド。

でも歩にはひよのの顔が赤くなっているのは判っている。見えなくても。



「・・よくそんな恥ずかしいコト言えますね!!」
「あんたが勝手にそう思ってるだけだろ。暴れるな」
「で、でもですね!・・・・っ・・」



叫んでたら彼の顔が横にあって。

それだけで声がかすれそうになっている自分がいて。


それなのに、耳元で囁かれたときにはもうどしたらいいのだろう?



「・・黙れ」



多分、と言うか絶対顔が真っ赤だと思う。自分。

抵抗は勿論させてもらうケド。



「・・鳴海さんのバーカ」
「あんたに馬鹿呼ばわりされたのなら人生終わったな。ほら、終わったぞ」



ぽんっと頭をたたいた彼の顔はすでに自分の横には無かった。

終わったのは勿論彼の人生がでは無く、髪を編む作業。

綺麗に出来ているコトが鏡を見なくても判るのがとても悔しい。


1本の三つ編みが。



「・・・ありがとうございます」



一応、礼を言う。イヤだったケド。

だから顔は見ないで言ってやった。どんな顔してるか判ったもんじゃない。お互いに。


なのに歩はそんなひよのの気持ちを知っているのかのように



「こっち、向けよ」



なんて言って来た。まだ後ろに立っているというのは判っていたのだけど。

言うコトを聞かなかったらどうなるのかも判っていたから、向いた。


やっぱりそこには余裕な顔の歩があった。

自分がイスに座っているため、彼が上から見ているというのもカナリ気に入らない。



「・・向きましたケド?」



ひよのも下から見上げるように歩に余裕なふりをする。

実際にはちっともそんなんじゃなくて、上目遣いにしか見えなかった。歩には。



「・・やっぱ離したくないな」
「それは残念でしたね。私はもう帰りますから」
「帰さない、って言ったら?」
「・・そんな馬鹿なコト言ってないで一緒に帰りましょ?って言いますね」
「そうか」



歩が帰る準備を始めた。自分に手を出すつもりは無いらしい。

何となく、今までの経験で判る。そんな自分に心の中で笑ってしまう。


帰る準備をしている歩の代わりにゆっくりと自分は彼に近付く。



「・・何のつもりだ」
「離さなくても別にいいんですよ?帰れさえすれば」



歩の腕を抱える。

ようは腕を組んでいる状態。


でも彼はいつもの顔。ポーカーフェイス。無表情。

そんなコトは判りきっているから自分はニコっと微笑んであげた。



「・・馬鹿だな」
「む。本当は嬉しいくせして人を馬鹿呼ばわりですか」
「や、あんたはもともとそうだが・・」
「何ですかそれー!!!」



自分の腕を組んで怒るひよのを目のあたりにしながら歩が思ったコト。




俺も馬鹿だ・・・と。


つづく。


あとがき。2005.01.06 髪結んじゃいました。や、彼氏が彼女の髪を結ぶとか実際無いと思うケド。 彼は出来そうだったのでやってもらいました。三つ編み。 まぁ、照久は未だに出来ませんケドね。三つ編みなんて出来るかチクショー。 *お手数ですがメニューからお戻り下さい。