「お・さ・げ・さ〜ん♪」


最近よく部室に顔を出す火澄。

彼は歩と対になるくらい人なつこくて愛想が良い。

ひよのが部室のドアを開けたらそんな火澄が両手をこちらに振っていた。



「こんにちは火澄さん」



ついついニコッと挨拶を返してしまいがち。

や、別に返してもその場にひよのしかいないのであれば問題無い。

もっと詳しく言えば歩がその場にいなければ問題無い。


と、ひよのは勝手に思っていた。もしかしたら自惚れかもしれない。

一緒に入ってきて、自分の隣にいた歩の顔を見ても別に変わりない。


それはそれで残念な気持ちのようなそうでないような・・。



「火澄、ジャマだ。どけ」
「俺にとってはお前の方がジャマなんやけど?」
「知るか」
「俺とお下げさんが仲良いからってそんな妬かんくってもええやん。なぁ?お下げさん」
「・・ぇ!?」



いきなり話を振られるといつもそんな返事を返してしまうひよの。

そんなコト聞かれてもこっちが知りたい。

歩は普段と何ら変わらない表情だし。もうすでに席に着いて自分のしたいコトしてるし。



「・・そういえば歩、お前・・・」



火澄はすでに話題を変えてるし。

この2人はマイペースすぎてたまに付いて行けない傾向にある。



「・・何だよ」
「お下げさんのコト名前で呼ばんな」
「あぁそうかよ」
「呼んで欲しいやんな〜お下げさん?」
「・・ぇ!?」



だから急に話を振るなっ!!と言いたいひよのであった。





























イイ子だね。





























「だからお前は帰れって」



くだらない話が始まってしまうと思った歩はそう言い放った。

勿論、火澄はそんなのは放っておいて話を続ける。

ひよのを無理やり席に着かせてまで。だからひよのもちゃんと話を聞いてあげる。



「お下げさんは今まで1回だけ"さん"付けやけど歩の名前呼んだコトあるやんなぁ?」
「え、そうでしたっけ?」



本当に覚えが無いひよの。

歩も呼ばれた覚えが無い様子。



「あるやん。お下げさんが"どちらの言葉をあなたはスキな人に言えますか?"って聞いたとき」(励まして〜のお題3参照)
「あー・・何かあったような無かったような・・って気持ちですね」



確かにあったような気もする。

が、しかし



「・・火澄さんが何で知ってるんですか」
「んー?企業秘密♪」
「お前が言うな」
「そのツッコミもお前が言うトコロじゃないと思うで?」
「気にするトコロじゃない」
「と、言うワケで・・名前呼び捨てとかしやんの?2人。」



ドコが"と、言うワケで"なのかは判らないがひよのも少し考えてみる。

確かに・・よく付き合っている2人は名前を呼び捨てし合っているような気もする。

とても幸せそうにも見える。

でも、自分らがそんなコトをしているトコロなど想像出来ない。



「と言うかお下げさんの方が俺らより年上なんやで俺らに"さん"付けで呼ぶ必要無いと思うんやけど」
「え?・・イヤですか?」
「や、そんなコト無いケド。"さん"付けやと気使って疲れやんのかなぁっと思って」
「大丈夫ですよ。ひよのちゃんはいつも元気いっぱいです♪」
「バカだからな」
「むー。何でそーゆートコロだけ話の食い付きがいいんですか」
「事実だからじゃないのか?」



表情も目線も変えずに歩は答える。

ただ雑誌をペラペラとめくっているだけ。


そこで火澄が思いついた。



「・・じゃあ、お下げさん1回俺のコト呼び捨てで呼んでみてや」
「え?」
「俺より年上なんやしさ。ええやんなぁ?歩」
「・・何故俺に聞く」
「・・・・・・・・」



ひよのが黙って少し考える。

そう、火澄は自分より年下。だから呼んでも別におかしくは無いハズ。


そしてひよのはじーっと火澄の方へ目線を変えて、呼んだ。




「・・ひ、火澄・・・?」




何となく疑問系になってしまった。最後の方だけ上げ調子。

そんなひよのに火澄は



「・・何か、お下げさんがメッチャイイ子に見えるv」



と、言いながら前に座っているひよのの頭を撫でる。

や、私一応年上ってコトで呼び捨てさせてもらっただけなんですケド・・と、

思いながら撫でられていた。


すると歩がこう言った。



「・・おい、火澄」
「んー?何や、歩」
「いつまでそうしてるつもりだ」
「うわっ!普段自分はアレだけお下げさんに触っておいて俺がこうしてるだけでそんなコト言うんか!!
 コイツ嫉妬しとるで〜お下げさん?」
「え?っえ!?ぇ!?」



頭が撫でられている状態なので(関係無いか?)状況がよく判らない。

そして横から手が伸びたのが視界に入った。




「いいからやめろ」




ため息を付きながら歩が立ち上がって、火澄の手首をつかんでいた。

またしてもある意味状況がよく判らないひよの。

しかし火澄は嬉しそうに、そして楽しそうに言った。



「そうそう、歩はソコで嫉妬しやなあかんのや♪お前もイイ子やな」
「・・馬鹿なコト言ってないで早くどっか行け」
「偉そうなコト言えるんか?俺がこうしたらんと自分がどれだけお下げさんのコトがスキなのかも判らんくせに」
「大きなお世話だ」
「お下げさ〜ん!歩が呼び捨てで呼んで欲しいって言っとるで〜!」
「・・ぇ!?」



今日は本当によく急に話を振られる日だ。

自分が状況をつかめないうちにこの年下の2人によって話を進められてしまうのが原因。


とりあえず、聞いてみた。



「・・呼んで欲しいんですか?」
「・・・さぁ?」
「素直やないな〜。コイツのこーゆー反応はイコール"YES"って考えてええで、お下げさん」
「だからお前は帰れってさっきから言ってるだろ・・」
「はいはい、帰ったるがな。ほな、お下げさんまた明日な」
「は、はい・・」



火澄は手をヒラヒラさせながらニコニコとした顔で部屋を出て行ってしまった。

部室にはひよのととある困ったさん。


さぁ、どうしようか。



「・・で、呼んで欲しいんですか?」



先程もした質問を繰り返すひよの。

ちゃんと答えをもらえるように歩の目を見て話す。

2人とも立った状態なのでどうしても身長差が出来て下から少しだけ見上げる形になってしまうが。


それがまた歩にとってはちょっとした拷問になって。



「・・・さぁ?」



と、同じ答えを繰り返すしかない状態。

これ以上何回聞いても同じ質問、同じ答えを投げ合うしかなくなるであろう。

なのでひよのは自分で答えを勝手に出させてもらった。ため息を付きながら。



「あなたも変なトコロで子供っぽいですね」
「あんたより一応1つ下だからじゃないのか?」
「なら普段の行動もソレに沿って欲しいんですケド?」
「じゃああんたも年上らしい行動を取れよ」



コレは遠まわしに呼んで欲しいと言っているコト、と考えて良いのだろうか。

相変わらず彼は自分の前に立っていて。

そして相変わらずイヤな男だと思う。そりゃ痛いほど。


でも、スキ。



「・・苦しいんですが?先輩」



確かにひよのは両手で歩の制服の袖の部分をつかんでいた。

何となく、つかみたくなった。だからつかんでやった。


そして上を見た。



「・・ちゃんと年下さんの言うコトも聞いてあげませんとね」
「俺何か言ったか?」
「・・・さぁ?」
「真似すんなよ」
「口癖であるコトちゃんと自覚してたんですね」



この辺まで来るといつもは彼女に何かしてるかもしれない。自分は。

でも、今はしてやらない。言わせるまでは絶対。

例えどんなに距離が近くても、上目遣いであっても。



「ちなみに俺は呼ばないからな」
「え?」
「呼び捨て」
「別に呼んで欲しいって言ってないじゃないですか」
「呼びたくなったら呼ぶ」
「だから別に呼んで欲しくないですってば」
「あぁ、そう」
「そうです」
「で、いつまでこの状態にさせておくつもりだ?」



お互いに譲りたくないモノがそれぞれあるらしい。何かは判らないが。

だから進まない。時間だけは例外で。


・・仕方ないから譲ってあげようか。年下さんに。



「・・歩、のバカ」
「・・・色々といらないもんが付いてるんだが」
「ひよのちゃんはイイ子ですからオマケも付けてあげたんです。年下のワガママさんに」



そう言ってぼすっと彼の胸にぶつかる。

顔は見てあげない。どうせ後で無理やり向けられるから、あえて横向きにして。



「・・コレもオマケか?」
「そうじゃないんですか?イイ子でしょう、私」
「・・あぁ、イイ子だ。わりと」
「わりと?」
「わりと」




やっぱり、素直じゃない。

ケド、これくらいがきっと丁度イイから。2人には。



つづく。


あとがき。2005.01.10 長いな・・。微妙にこの2人いつもと雰囲気違うしね。 まぁ、こんな余裕なカンジの2人が一番スキかもしれません。 大人っぽく。そう言えば歩さんを呼び捨てするひよのさんはこのサイトだけか? や、これからずっと呼ぶワケじゃないんですケドね。ひよのさんも呼びたいときだけ。 *お手数ですがメニューからお戻り下さい。