「鳴海さんは料理の本しか読まないんですね」



いつものようにパラパラと料理雑誌をめくっていた歩に

横に座っていたひよのはそう言った。


歩もほおづえを付きながら同意を表す言葉を発した。




「・・まぁ、そうかもな」
「だからなんですよ!」
「何が」
「だから鳴海さんは言葉での表現力が欠けているんですよ!」
「・・・またその話か」




うんざりと言うカンジの歩。

以前に彼はもうその件は解決したつもりでいた。(お題10参照)


しかし彼女にとっては未解決なままだったそうで。




「鳴海さんももっと小説とか読んだらいいんですよ!」
「小説って・・・例えばどんなんだよ」




だいたい予想は付く。

でも彼は彼女に訊いた。




「恋愛小説ですよ!」





・・やっぱなと彼は心の中でそう思うだけでなく

言葉にも出していた。





























オレの全部をオマエにやるよ。





























「コレなんか超オススメですよ」



ばんっ!と歩の読んでいた雑誌の上にその本を乗せた。

厚くも薄くも無い本。


しかし彼にはいわく付きの本にしか見えなかった。




「・・俺がそんなん読めるかよ」
「そんなんもこんなんも無いです!全ては鳴海さんのためなんですよ」
「どの辺が俺のためなのか詳しく聞きたい」
「鳴海さんの愛情表現の向上のために役立つ本だからです」




ひよのがニコっとして答える。

何としてでも歩に読んで欲しいらしい。


イヤでも判る。だから歩もひよのには少し甘いトコロがある。




「・・・少しだけだからな」
「あれ〜?珍しいですね。鳴海さんが素直に言うコト聞くの」
「だったらこんなもん読ませんなよ・・ったく」




とりあえず適当にページをめくる。

そしてところどころに有る文章やセリフを見てみる。









・・・・・・・・・・・・・・・・









ぱたんっ




「あー!何一分も経たないうちに閉じちゃってるんですかぁー!!!」
「こんなもん読めるか!!!」
「ダメですよぉ〜現実から逃げては」
「ならせめてもっと現実味のある本を読ませろ!!」
「別にファンタジーモノでは無かったはずですケド・・・」
「そうじゃなくてだな!!!・・・あぁもういいよ。とにかく俺はソレは読まないからな」
「え〜、結構純愛モノでイイお話なんですケドねぇー」




歩がこの本を嫌う理由。

ソレは中身があまりにも甘ったるいバリバリの恋愛小説だったから。


ようするに内容もセリフもくさいモノで読んでるこっちが恥ずかしくなるようなモノだったから。




「あんたももっとマシな本読め!」
「なっ!くだらないと言うんですか!!この本を!」
「あぁくだらねぇな。だいたい何で俺がそんなモノ読まなきゃならないんだよ!!」
「そんなん鳴海さんが私のコトを不安にさせてるからじゃないですか!!!」




ひよのの本音が出た。出てしまった。

ケンカの勢いだったせいかつい出てしまった。


別にそんなコトは言うつもりは無かったのだけど。



はっとした表情をするひよの。




「な、何でもありません。気にしないで下さい・・」
「・・・何が不安なんだよ」
「別に、不安なんか・・・」
「何が不安なのか言えよ!!!言葉にしなくちゃ判んないって言ったのはあんただろ!!」




がっとひよのの肩を強くつかんで叫ぶ歩。

ひよのもそんな歩を恐れる。


そして、目尻に涙が溜まっていた。





「ふ・・・っ・・鳴海さん怖い・・です・・・っ」





泣きながらそう言ったひよのの目を見て、

彼は自分のやり方が間違っているコトに気付いた。




「・・・悪い」




ただそう言って離れるコトしか出来なかった。そして部屋を出て行こうとした。


しかし彼女がそんな彼を呼び止めた。




「ま、待って下さい!!鳴海さん!!!」
「・・別にもう何が不安とか言わなくていいから泣くのをやめろ」




彼は悲しいときに泣いている彼女が苦手だった。

彼女は涙を服の袖で拭いながら話を続けた。




「私が・・不安になるのは、鳴海さんが本当に私のコトを好きなのかなぁとか思ってしまうコトで」




歩は彼女に背を向けながら聞いていた。

まだ顔をまともに見れる自信が無かった。




「鳴海さんはあんまりもともと気持ちを表に出さない人だから
 何考えてるか、私には判んなくて・・だから、不安になって!
 鳴海さんに私を安心させるような言葉を言って欲しくて・・・!」




最後の辺りは言葉が濁っていた。

歩はひよのに視線を戻した。


彼女は少しだけビク付いた。でも、目だけは歩の目に向けていた。



そんなひよのに歩は近付く。


そして、抱きしめた。




「・・・鳴海さん・・?」
「・・俺は確かにあんたを不安にさせない言葉なんて知らない」
「・・・・・・・・・」
「でも、出来る限り不安にさせないように・・努力するから」
「・・・はい」




歩のその言葉だけで不安が無くなったひよの。

彼がちゃんと自分のコトを考えているコトが判ったから。


ぎゅっとひよのも歩に身を寄せる。




「・・・さっきのヤツ参考にさせてもらうか」
「・・・・・ぇ?」




よく意味が判らないひよのの耳に歩が口を寄せた。


そしてこう言った。






「・・・俺の全部をお前にやるよ」






この言葉はさっきの本のセリフからのモノであった。

結局、ひよのはまた泣いてしまったようだけど。嬉しすぎて。


つづく。


あとがき。2004.12.11 おぉー何かお話っぽいぞ〜、今回は。 ひよのさんも歩さんも頑張ったねぇと言うカンジ。珍しく2人とも幸せに終わったね。 こんなんのもたまにはいいかなぁとか思ったりして。 *お手数ですがメニューからお戻り下さい。